計算機の歴史2

チャールズ・バベッジの計算機(階差機関),その後の解析機関を経て機械式のコンピュータはいくつか作られたようである.バベッジのコンピュータが未完成に終わり,それを知った田舎の鍛冶職人が勉強して作ったら見事に動作するものが出来上がったという話しもあるがそれが売りものになったかどうかは不明である.

チャールズ・バベッジの計算機以後,約1世紀は,計算機の飛躍的な発展は無かった.この1800年代から1900年代の初めの頃に機械式の計算機が数多く作られ,その後は,電子式のコンピュータが登場してくることになる.

本ページでは,コンピュータの基本原理を考えたチューリング博士,そして,現在のコンピュータの原型を作ったノイマン博士について紹介する.

前ページの「計算機の歴史1」で今も昔も変わらぬコンピュータの共通点として,いくつか挙げた.その中で,「記憶媒体がある」という共通点があった.

まず,その辺りから話を始めることにする.


アラン・チューリング(Alan Turing : 1912年6月23日 – 1954年6月7日) 

アラン・マシソン・チューリングは,1912年6月23日にチューリング家の次男としてロンドンで生まれた.両親は,子供たちをイギリスに残して,仕事でインドに行っていた.母親はイギリスに戻ってきたが,父親はインドに残っており,今で言う単身赴任状態の生活を送っていた.チューリング家は上流家系だったので,通常の教育を受けるだけの十分な環境が整っていた.

アランの母であるサラ・チューリングは,3歳のアランのやることを見て,「この子は天才かもしれない」と父親に手紙を送っていたという話もある.その後,1931年,アランは,ケンブリッジ大学キングスカレッジに合格し,寮生活が始まる.この頃から彼は自分が同性愛者であることを確信したと言う.

アランがコンピュータを創造し始めるのは,この大学に在籍していた時である.大数学者ダーフィット・ヒルベルト(ヒルベルト空間で有名な数学者)が1900年の第2回の国際数学会議で数学界の23の難問を紹介するとともに同時期に公理系からの数学の見直し(公理主義の提唱)を始めた.これをヒルベルトプロジェクトなどと呼ぶ.つまり,数学全体が危機的状況にあったのである.アランは,純粋数学者でこの数学の危機を重く受け止めて,深く考えにふけっていた.

1936年7月,アランは現代の計算機科学の始まりとも言われる論文を発表した.それが,「On Computable Numbers, with an Application to the Entscheidungs problem」(計算しうる数と決定問題への応用)である.

この論文でアランは,「無限に長い記憶テープ」「その記憶テープに対して読み書きできるヘッド」「状態を記憶できるメモリ」の3つあればどんな問題でも計算可能であると言っている.ただし,その問題に解が存在する場合であり,解が存在するか否かを求める問題は別である.現在で言う,P問題とNP完全問題である.

これが今のコンピュータの根幹にある.

しかし,無限に長い記憶テープなんて作れないので,円盤状にしてそれをクルクルと回して無限と見せていると考える.

結局,アランは,同性愛者ということで,収監されその後,42歳になる直前に謎の死によりこの世を去った.母親であるサラ・チューリングは自殺ではないと言い張っているが,彼の死は謎のままである.


より詳しく勉強したい方は下記の文献を参照のこと.

  • アラン・チューリング伝―電算機の予言者 (1969年) ,サラ・チューリング (著), 渡辺 茂 (翻訳), 丹羽 富士男 (翻訳)
  • 甦るチューリング―コンピュータ科学に残された夢,星野 力 (著)
  • チューリングを受け継ぐ―論理と生命と死,星野 力 (著)

アラン・チューリングの死後,チューリングが提唱した考えを導入して様々な計算機を作る試みが行われた.つまり,長い記憶テープと読み書きするヘッド,状態を記憶するメモリを備えた多くの計算機が登場してきた.それら全てを紹介することはできない.おそらく,全てを把握している人もいないと考えられる.
例えば,大きな円形のドラムを長い記憶テープとして見立てて使用し,それをモータを使って回す.さらには,機械的なスイッチを装備しておき,それを自動でパチパチ切り替えられるようにするなど様々な工夫が施された計算機が登場した.
次は,現在のコンピュータの起源を作ったノイマン型コンピュータについて説明する.

フォン・ノイマン(John von Neumann : 1903年12月28日 – 1957年2月8日) 

コンピュータの歴史において,この人の名前をならなければその人は,「なんちゃって情報科学屋さん」である.もちろん,アラン・チューリングは基礎の基礎を築いた人であるので知っていて当たり前レベルの人物である.

フォン・ノイマンが成し遂げた偉業は,プログラムを記憶できるストアード型コンピュータを創造し,実際に作り上げたことである.プログラムを記憶する前は,配線を繋ぎかえるなどしてプログラムを行っていた.

電子式のコンピュータは世界の様々な科学者が切磋琢磨していろいろな場所で発明されていた.それらの発明に順番をつけたり,どちらが優位であると言った議論はここではしない.フォン・ノイマン(通称,ジョニー)が関わった2つのコンピュータとジョニーが関わった2人の人物について紹介する.

ジョニーは,ハンガリーの裕福な家庭の長男として1903年に生まれた.ジョニーは天才的な能力を発揮し,数学者,物理学者,経済学者など多くの顔を持つ天才科学者と言っても過言ではない.このジョニーがコンピュータと出会ったのは国家プロジェクトで作られていたコンピュータで名前は,エニアック(ENIAC:Electronic Numerical Integrator and Computer)であった.このプロジェクトは,コンピュータを使い暗号の解読や弾道ミサイルの弾道計算用に米軍が出資してコンピュータを作るという計画であった.つまり,軍事目的の専用コンピュータではあるが,暗号解読や弾道計算などの複数の処理を1台のコンピュータで行うので,軍事目的においての汎用計算機であると言える.

このエニアックコンピュータはそれまでのコンピュータとは大きく異なり,コンピュータ内部の情報の伝達や情報の記憶に電気やメカは使わず,すべて電子で行うという電子式のコンピュータである.これを発明したのは,エッカートと言われている.そして,同じ大学で学んだモークリーと共に,この「プロジェクトPX」の中心人物として1943年7月から10数名の若い科学者とともにエニアックの開発は始められた.このメンバーの中にジョニーはいない.

軍事目的で作られたエニアックでったが,結局エニアックが稼働したのは,1945年の秋,終戦後であった.文献によると,20万人時間の労働力と48万6804ドル22セントの経費を費やしてエニアックは完成した.しかし,その完成は遅すぎたのである.

エニアックの完成間際の1944年秋,エニアック計画を知ったジョニーは開発現場へ出向くようになり,エッカートを代表する開発チームとコンピュータについての議論を何度となく繰り返している.そんな議論の中でエニアックの次のコンピュータの構想を描いていたのかもしれない.エッカートも同じくジョニーがあらわれる前から次のコンピュータの構想を思い描いていた.

1945年の終わり,次のコンピュータの開発を軍が承認した.「プロジェクトPY」である.このプロジェクトで開発するコンピュータ名は,エドバック(EDVAC:Electronic Discrete Variable Calculator)であった.このプロジェクトには,エッカートとモークリーのほかにジョニーが加わっていた.しかし,ジョニーの考え方と2人の考えはあわずに,最終的には決別してしまい,エッカートとモークリーはプロジェクトPYから去ることとなる.

1945年6月30日,「EDVACに関する報告書ー草稿 ジョン・フォン・ノイマン著」という報告書が出来上がった.この報告書が決定的となる.

EDVACはプロジェクトで作り上げるものであるが,ジョニーはアイデアをまとめておいた方が良いと考え,この報告書が作られたのである.この報告書の中にプログラム内蔵のコンセプトを打ち立てたのは,ジョニーであると言った記述があるようであるが,ジョニーはそれを否定も肯定もしなかったと言う.

結局ジョニーは,1957年に亡くなってしまうが,この報告書が残されたためにプログラム内蔵(記憶)型の現在のコンピュータを「ノイマン型コンピュータ」と呼ぶ.しかし,エッカートやモークリーの業績を無視したこの呼び名を否定する考えもあるが,本ページでは,慣例により現在のプログラム内蔵型のコンピュータをノイマン型コンピュータと呼ぶこととする.

最後に一言,世界初の電子式コンピュータは,ENIACではなく,ABCである.これも文献を読むと詳しく書いてあるが,ENIAC開発者のエッカートがアイオア州立大学のアタナソフとベリーのコンピュータ(通称,ABC)を数回にわたって視察しているというのである.つまり,ENIACの基本構造はABCがもとになっており,十年ぐらい前までENIACが世界初の電子式コンピュータと言われていたが,現在は,ABCが世界初の電子式コンピュータであるという見解が一般的である.


より詳しく勉強したい方は下記の文献を参照のこと.

  • フォン・ノイマンの生涯 (朝日選書),ノーマン マクレイ (著), Norman Macrae (原著), 渡辺 正 (翻訳), 芦田 みどり (翻訳)
  • エニアック ― 世界最初のコンピュータ開発秘話,スコット・マッカートニー (著)
  • ENIAC神話の崩れた日,クラーク・R. モレンホフ (著), Clark R. Mollenhoff (原著), 最相 力 (翻訳), 松本 泰男 (翻訳)

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